モダンホラー第三の男――ロバート・R. マキャモン「魔女は夜ささやく」
スティーヴン・キング、ディーン・クーンツと続いて、日本で第三の男として紹介されたマキャモンであるが、もうすっかり新作が日本で出ていないので寂しいかぎり。再評価が進んで欲しい。
キング以降のホラー作家の例に洩れず、ホラーおよびスーパーナチュラルからの脱却を進めた「少年時代」「遙か南へ」もおもしろかったし、普通小説もいけるやんといったところで、ぱたりと新作が途絶えてしまったのである。
というわけ久しぶりに発表されたマキャモンの最新長編(といってもずっと前なんだけれども)を読んだ。なんとこれが時代小説。
意外に思ったが、まさに一気読みだった。
10年のブランクを経て発表された上下巻の大作で、17世紀末のアメリカ南部での魔女裁判を題材にとった意欲作だ。
いまだヨーロッパではペストが猖獗を極め、中世的な暗黒から抜け出せずにいる時代である。新大陸は、原生林と列強、インディアンと魔物が割拠する混沌のさなかにある。
アメリカ史にあるセーレムでの魔女裁判は、ほんの数年前の出来事だ。そのため、いかにもなホラータッチで話が進められるが、魔女の疑いをかけられた女性を救うべく奮闘する青年マシューが、超自然的な現象を合理的に解き明かしていく過程は、ミステリそのものでもある。
これに海賊の秘宝伝説、植民地を狙うスペインの魔の手、いまだ不気味な存在であるインディアンなどの様々なエピソードを絡ませて、物語を立体的にふくらましていき、最後にはきちんと畳んで見せる。
次から次へと苦境に放り込まれる主人公が気になって、ページを繰る手が止まらない。もっと大事に読めばよかったとおもうが、やはり読書の醍醐味は、一気に集中して読める娯楽作に出会うことだろう。
こんなにおもろいマキャモンが軒並み絶版とは――。
まだ生き残っている「少年時代」のレビューをすべきだったかな。
これも大傑作。
少年時代の甘酸っぱい思い出が(たとえそんなものに縁がない人生を送っているような人にも)蘇ってくる。ホラーから脱却を進めた一作だが、そのぶんファンタジー的な感性でもって全体をまとめ上げている。(思うに両者は、根源的なところで同じなのである)
主人公が幼い頃に目撃した殺人事件を主軸に物語は展開し、最後はミステリ的にまとめ上げてくれるので、安心してマキャモンの世界に浸れる。
マジックリアリズム的な描写で、少年の目に映る世界というものがが、生き生きと読者の中に蘇ってくる。
人生に疲れたときこそ、こういう本を読んで息を吹き返して欲しい。