愛読書3 シオドア・スタージョン

一角獣・多角獣 (異色作家短篇集)
シオドア・スタージョン。一昔前までは知る人ぞ知るというかんじだったが、今では短篇集が出まくっていて再評価が進んでいる短編の名手だ。

僕ははじめ、人間以上とか夢みる宝石とかの長編でしか彼を知らなかったが、当時絶版で値段が高騰していた短篇集「一角獣・多角獣」を図書館で借りて、一読するや、どぎもを抜かれた。(この異色作家短編集という叢書にも凄くはまったが、それは別の話)

それまで僕のスタージョンの作品の印象は、前半はいいが、後半になるにつれて難解になってスピード感が落ちていくというものだった。もちろん僕の理解力が及ばない範囲まで思想が深くなっていくからそう感じたのだろうが。

この印象はちょうど並行して読んでいたフィリップ・K・ディックと同じだなーと浅はかにも当時の僕は考えていて、スタージョンは僕の中で特別な位置を占めることはなかったように思う。作品数も少なかったし。

ところがこれ、短編の切れ味たるや、強烈なこと。

なかでも最初から最後までトップスピードで突っ走る「死ね、名演奏家、死ね(die maestro,die)」は、のけぞるほどすごい。異常心理を異常心理とは呼ばせない、普遍的なものにまで高められている。彼の作品には、ところどころ異様にセンチメンタルな部分があるが、それすらもスタージョンの魔法にかかるとギリギリの綱渡りをしてしまう。下手な作家が真似すれば、ただたんにおセンチなだけになってしまうだろうが、そこをギリギリでかわしてしまう。


「輝く断片」もそうだ。異常心理のキモメンを、それをあれほど普遍的に、切なく描けるのは、スタージョンの魔術というほかない。あ、これにはdie maestro,dieの別バージョン「マエストロを殺せ」が収められている。こちらのほうが田舎っぺ感とキモメン感がよくでているかもしれない。

というわけでスタージョン全集が日本でも出て欲しい。

輝く断片 (河出文庫)