フィリップ・ホセ・ファーマー/リバーワールドシリーズ

一種の漂流モノといったらいいだろうか。未知なる土地に放り出され、裸一貫で、おのれの知識とそこにあるものだけを頼りにサバイバルを繰り広げるという冒険物語は、いつだっておのれの本能を刺激し、わくわくさせられるものだ。

古くはダニエル・デフォーロビンソン・クルーソー、SFの系譜をたどるならばジュール・ヴェルヌの15少年漂流記、神秘の島などなど。いずれも最高に楽しい読み物だ。

このリバーワールドシリーズは、その漂流モノを、じつにSFらしい凄まじく壮大なスケールで描いた力作だ。
なにせこのリバーワールドに漂着するのは、人類の歴史の黎明期から終末期まで生きた人間すべて、ざっと400億人ほど。宇宙人から原始人まで、ありとあらゆる人間が若い肉体で転生し、巨大な渓谷に流れる、すさまじく長大な河の両岸に配置されたのだ――何者かの意志によって。

彼らは生きるためにあくせくする必要はない。聖杯と呼ばれる筒状の物質転換器が、食を満たしてくれるし、病気は一切ないし、みんな若い肉体に生まれ変わったし、万が一死ねば、また生まれ変わって、河の両岸のどこかに再配置される。ここは天国なのか? 

いや、違う。死の苦痛はそのまま残されている。人間たちの前世の記憶もまた、そこにしっかりと残っている。かくして、争いがはじまる。生存のための競争ではない。自分たちが生きた時代から持ち込まれた野心を満たすためのサバイバルが、壮大なスケールで展開される。ふたたび武器が作られる。磨製石器がつくられる。鉄器がつくられる。火薬が、電気がつくられる。国が興され、戦争が起こる。ただ野心を満たす、それだけのために。人類は無限に生まれ変わり再生産される悪に隷属するのか、それとも無数の生まれ変わりによって、それを乗り越えることができるのか。ここは人間を試す煉獄の場なのだ。

このリバーワールドシリーズの主役たちも気宇壮大な野心を持つ。この世界をつくった者達の正体を明かすために、抗うために、この長大な河の源流を探る冒険へと出かけるのだ。

このような壮大な物語が、一冊だけで終わるはずもない。たぶん、結論にSF的なワンダーやひねりはなさそうだが、冒険はその過程にこそ意味があるものだ。存分に彼らとの冒険を楽しもうではないか。

リバーワールド [DVD]

映画化もされてるとは……まあ駄作っぽいけど、本が絶版なので一応載せておく。