近世ヨーロッパへのいざない 入門編:小説、映画、ついでにゲームなどの紹介
世界史の中ではけっこう近世ヨーロッパが好きだ。
この時代は世界史上でも重要な転回点が訪れた時代だと思うのだが、関連書籍はなんか少ないような気がする。いわゆる大航海時代みたいな、冒険家であるとか、海軍であるとか、海賊であるとか、海外植民地であるとかの華々しい話は多いだろうけど、かんじんのヨーロッパ大陸にどんな変化が起こりつつあるのかを描いたものは少ないような気がする。特に小説は。
スペイン編
小説でおすすめなのが上の画像にもあるアルトゥーロ・ペレス・レベルテ著『アラトリステ』。いきなり絶版本を紹介して申し訳ない。
17世紀当時、ヨーロッパ最強の歩兵軍団を擁していた黄金期スペイン帝国の傭兵、アラトリステの生涯を描いた時代小説だ。
なかでも戦争好きな人には、この三巻目の「ブレダの太陽」がおすすめ。宗主国スペインと、独立を果たそうとする新興共和国オランダとの、長い長い戦争のうちのほんの一幕ブレダ攻囲戦が描かれている。もちろんスペイン側に立った視点ではあるけども。
超詳しく当時の攻囲戦や野戦、傭兵の生活が描かれている。
のちの第一次世界大戦に繋がるような、悲惨きわまりない塹壕戦の祖型が描かれていて興味深い。火力と火力が拮抗すると、どうしてもこういう膠着状態が生じてしまうのだろう。日本が太平の世をむさぼっている間に、こんな戦争を西欧は何度も繰り返してきたのか、と驚嘆することだろう。まあ、実際は地味な(兵士にとっては悲惨だが)要塞の取り合いばかりで、派手な大会戦は行われなくなった時代でもあるのだが、のちの時代につながる要素が、もうこの時点で多数出ているのはおもしろいと思う。なぜ現代になっても欧米諸国が世界の戦争をリードし、コントロールしようとしているのか、考えるヒントになるかもしれない。
ヴィゴ・モーテンセンで映画化もされている。
小説の何作かを一気に詰め込んだような脚本のため、この時代に興味のない人にとってはきついかもしれないが、それでもオペラ女優マリアとアラトリステとの悲恋がなかなか秀逸。ベラスケスの絵画のように陰影に富んだ映像美、美しくも豪華な衣装やセットは、それだけでも資料的価値があるものだろう。
かの有名なテルシオ軍団の野戦が見れるのも、この映画ぐらいだろう。フランス側の見事な三兵戦術で敗れ去っているけれども、太陽の沈まぬ国スペインの没落を表していて、味のある終わり方となっている。
イギリス編
清教徒革命の奸雄、オリヴァー・クロムウェルを描いた映画、ケン・ヒューズ監督「クロムウェル」もいい。毀誉褒貶の激しい人物ではあるが、ヨーロッパ近世の主権がもはや王にはなく、その時代の時流を得て富を蓄えた市民ブルジョワジーに、じょじょに移っていったということを示す好例だろう。王を殺すということがどういうことなのか、世界に先駆けて示したこの歴史上の出来事をうまくまとめているように思う。
戦争シーンも見応えがある。
エッジヒルの戦いや、ネーズビーの戦いが詳しく描かれている。スウェーデンのグスタフ・アドルフ方式の三兵戦術で戦われており、放埒ではあるが装備や訓練の行き届いた国王軍騎兵と、はじめバラバラだったが、クロムウェルの指導によって清教徒的な鉄の規律を持つに至るニューモデルアーミーを擁する議会軍の戦いは必見である。
ポーランド編
知られざる東欧の大国ポーランドの興亡を描いた歴史ドラマ「ファイアー・アンド・ソード」もいい。ポーランド・リトアニア共和国、ウクライナの戦闘民族コサック、クリミアハーンの遊牧民タタールの三つどもえの争いとなった、フメリヌィーツィクィイの乱(舌噛みそう)を描いた大作。背後に台頭著しいロシアの陰も見える。最初に、この複雑な政治的関係をそれなりに理解してないと感情移入は難しい。ぶっちゃけよくわからん。
だが、西洋でも東洋でもないエキゾチックな衣装に音楽と、異世界情緒の魅力にあふれている。一見の価値ありだ。
古代ローマの暴君ネロの時代を舞台にした「クオ・ヴァディス」で有名なヘンリク・シェンキェビッチが原作で、三部作のうち一作目のドラマ化だそうだ。これ、翻訳してほしいなあ。日本語版の映画は省略されまくってるそうなので、本来の魅力が減じていると思う。
クオ・ヴァディスをエンタメ的に読んでも非常に面白かったから(特にペトロニウスという実在の人物が放つ異彩さが素晴らしかった)、たぶんこの三部作も面白いよ。誰かこの時代のポーランドに興味を持ってよ。まあ、やっぱマイナーで売れなさそうだから翻訳が進まないんだろうけど。
ついでにゲーム編
・マウント&ブレード ファイア&ソード
このシェンケビッチの原作をもとにしたゲームもあるそうな。ちょこっと体験版をやってみたけど、騎馬戦がなかなか爽快なゲーム。欲しいなあ。ポーランドは騎兵部隊が強かったそうだから、そういうつくりになっているのかな。
見よ、このウィングド・ハッサーの勇姿を。かっこいいと思いませんか。かぶいていると思いませんか。映画にも出てきますよ。大砲とマスケット銃のいい餌食になってるけど。最後の最後で活躍します。
・Age of Empires III
これはちょこっとやったことがある。たぶん上記のヨーロッパユニバーサリスより取っつきやすい。
ゲームはあんまりやってないからレビューになってないな。
しかも、さほど小説を紹介してない。
うーん、まあいっか。