心の叫びをみつけだす――グレッグ・M・ファース/絵が語る秘密
ユング心理学系の本を読みあさっていたのだが、これはいいなと思う本があったので紹介してみる。
ユング派分析家による絵画療法の手引きである。
絵画療法とは、病気によって死を目前に控えた子供たちの、
心理療法として発展してきたものだという。
言語能力がじゅうぶんに発達していないが、そのぶん、イメージによるコミュニケーションが豊かに行える点に、この絵画療法の意義があるという。
それに、創造的な力、絵を描くことによる癒しの効果は誰もが経験していることだろう。
口絵には数十枚の、一般の人、心に傷を負った人、病気の子供までの絵がならんでいる。一見して精神状態が分かるものもあるが、たいていはごく普通の絵に見える。
この絵のユング心理学的な解釈によって、治療を深めていくわけだが、ここで疑問に思う人もいるだろう。
絵を描くだけで、じゅうぶんな治療の効果が得られるのではないか、絵の解釈によって、絵の神秘性が薄らぎ、治療に役に立たたないどころか、ぶち壊してしまうのでは、という疑問である。
しかしこの著者は、断定的な調子で分断するような解釈はしない。
心理分析家というと、ひとのこころが手に取るようにわかる、といった想像を(あるいは、わかるふりをしている分析家がいるからかもしれないが)する人が多いと思うが、ふつう、そんなことはない。
心理分析は、患者とのやりとり、対話によって明らかにしていく共同作業であり、治療者はその注意深い導き手に徹する。理解を深めていくのはあくまでも患者自身であるという。
そのためか、この著者の解釈の視点も、患者に寄り添うように動いていくのがよくわかる。
深い人間洞察に満ちた言葉も、患者自身が腑に落ちないと空疎だ。
深層心理学というのは科学ではなくリベラルアーツ、一般教養であるとの言葉も、この分野を学ぶ者は、教科書では学べぬ、共感的な態度、深みのある人間性を経験的に獲得していかねばならぬことにあるのではないか。少なくとも科学的ではないからといって、無意味だということにはならないだろう。
話はそれたが、そうした治療者と患者のやりとりで、病気によって死にゆく子供たちの絵や、心に傷を残した人々の絵の解釈が胸を打つ。
早朝の小鳥の鳴き声は、人間にとっては、ほほえましい朝の光景にすぎぬが、小鳥たちにとって、それは命を振り絞った魂からの叫びだ。
自由絵も、とるにたらぬものに見えるかもしれないが、
理解してほしい!
という、意識、無意識からの叫びが封じられている。
そして、それがかなり悲惨な事実が含められるとしても――
未来へと通ずる道を示す。
子供は死にあって未来を見つめ、傷はさらなる大きなやさしさで包まれる。
残された人々にとっても、絵は重要なコミュニケーション手段となりうる。
母親は、子供に不自由を与えてしまったのではないかと不安に思う。
それに子供たちの絵は、母親にとって必要な答えを返しているのである。
いや感動したなこれ。