日記日記日記キーーキーーーー

今日はすさまじい日だった。生涯忘れない日となるだろう。
いわゆる革命というやつである。とはいえ私の日常が変わることはない。
ならばなにが革命だ、と問う人がいるかもしれない。
もしくは私を八つ裂きにしたいと彼もしくは彼女が狂人の叫び声を上げつつ、自らの住むみすぼらしい木造アパートの屋根に上がり、手にした花火を点火して道路で遊び戯れる近所の子供に火の粉を降らしている人もいるかもしれない。そんな方々のためお答えしよう。

なんと私は息をしているのである。


それはともかく今日もまた冒険とスリルとサスペンスに満ちた日であった。

友人たちと市内をそぞろ歩いているときのことである。
紅葉した木々が路上に色とりどりの葉を散らしており、その光景から想像させる風とはまったく別物の、たいそう強い風が私たちに向かって吹いていた。

行く手を阻むがごとく立ちはだかる風に、とうとう音を上げた私と友人たちは一時退却しようと向きを変え、私の家に向かった。

少し進んだところで、先行していた友人がムーンウォークをはじめた。
前に進んでいるように見えて、じつは後ろに進んでいるという歩行法である。

私は驚嘆した。
このような技を隠していた友人に辛くあたろうと、にぎにぎしく毒舌をふるう準備をはじめ、ここまで友人が来るのを待ち構えた。友人はムーンウォークというよりムーンダッシュと形容したほうがよさそうなスゴ技を繰り出していた。

しかもスピードは歩いているときと大差ない。私たちは瞠目した。
ムーンウォークを終えた友人がこちらへ駆け戻り、肩で息しているところを、私たちは口々に褒め称えた。

なかば羨望と嫉妬が入り混じった感嘆だった。

しかしその友人は、
「か、壁が、あっちにも!」
と分けのわからぬことを言い始めた。
とにかく行ってみろ、と言われ、私はしかたなく前へ進みはじめた。

ところがどうだろう、一向に進んでいないではないか。
後ろで「壁がせまってくる!」と叫び声があがり、振り向くと、四方に散った友人たちはパントマイマーもかくやと思われるほどの空気壁の演技をしていた。しかもそれに押しまくられる演技つきである。
「だ、だめだぁ」とへたり込んだ友人はすとんと地面に腰を下ろすと、そのままずりずりと押されていった。

こうなってしまっては人間業ではなかった。気がつくと自分も、友人たちに向かって進んでいた。自分の意思ではない。しだいに一点に向かって収束していくのだ。

しょせん風だとおもって見くびっていた私たちがいけなかった。
このまま友人たちに潰されるのだろうか、それだけは勘弁してもらいたいと願った。

ぐぐっとこんどは頭を押さえ込まれた。
ありがたい、上から潰してくれるか。上からも風壁が迫っていた。どうやら中央に着く前に潰されそうであった。

私も友人たちと同様に座り込んでしまい、暮れゆく空の変化を眺めた。
西の空から暗雲が広がり、その隙間から漏れでる血の色をした光輝が見えた。
かすかに夕日の頭ものぞいた。

ふと地上を見渡した。刈り入れ時の田んぼには稲穂がゆれており、さながら黄金の絨毯だった。
しだいに濃くなる闇は稲穂に影を与え、ゆれる稲穂を不気味な人影に変える。
ゆらゆら蠢く無数の影に、私は戦慄を覚えた。




オチなしですよ。事実ですから。
夏なのに秋っぽい描写があるのはきっとここは南半球かそういうかんじの場所なのかもしれませんね。