近世ヨーロッパへのいざない 中級編:歴史、とくに軍事史の本の紹介1

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

今、W・H・マクニールの世界史が人気らしい。
ご多分にもれず、僕もこういうマクロ史観の歴史本が好きだ。

特にマクニールは、広い視野に、鋭い視点、新たな問題提起と――どこから読んでも新しい発見がある。それにマクニールの文章は、厭世家のそれではなく希望に満ち、さわやかささえ感じさせる文章家だ。売れて当然の本だろうと思う。

それに、人のちょっとしたコンプレックスをつく、上手いマーケティング戦略を本屋さんは行っているようだ。

つまり、ひょっとしたら今まで学び損ねた世界史を、手軽お気軽に学び直せるのではないか? という下心を上手くついた戦略だ。有名大学で一番売れた本と帯が掛かっているのを見たことがある。

ところが一読すれば分かるとおり、これは受験用の正確な知識を得るためのものではない。そういう目的には、原語の一次資料に当たれるであろう著者が書く、各国史のようなものの方が、より正確であるに違いない。勉学に王道なし。そういう目的には山川の世界史など、いかにもな教科書っぽいつくりが、結局は一番いいのだ。

このマクニールの世界史から味読すべきなのは、その思考の補助線の引き方だろう。冒頭でも記したように、広い視野に鋭い視点、新しい問題提起といったことに注目すべきだ。

と、まあこんだけ書いておいて、実は「世界史」の紹介をしたいのではない。同じ著者の「戦争の世界史」が、僕がヨーロッパ近世〜近代史にはまったきっかけということの導入だ。しかし、あまりにも濃い内容であるがゆえに、どう紹介していいのか見当がつかない。

戦争の世界史―技術と軍隊と社会

ヨーロッパの歴史はそのまま戦争の歴史と言っても過言ではない。

特にこの本は、ルネッサンス軍事革命から、近代の第一次世界大戦までを、多くのページを割いて説明している。

だから、現代の軍事が知りたいという人には向かないだろうし、逆に古代ローマギリシャの軍事が知りたい、という人にも向かない。

しかも、中世は中国優位の時代として、一章割かれているという特徴がある。
今までになかった、あるいは不足していると思われる考察が、ふんだんに盛り込まれているわけだ。

この章では、史上初めての例として、中国で発達した市場経済の、軍隊に与える影響力が、王のそれを超えようとしていた、という考察が綿密に描かれている。だが中国は、伝統的に商人への不信感を表明しており、そのせいで頭打ちになってしまった、ということらしい。ライバルがほとんどいなかった、ということも影響しているだろう。

王が軍隊に優越し命令を下していた時代から、市場経済――つまりビジネスが、王よりも優越する時代になる。それがヨーロッパのルネッサンス期だったという。

おりしも封建社会によって細分化された領土が、ライバル不在という状況自体あり得ないものにしている。ヨーロッパを群雄割拠する勢力が、血で血を洗う抗争のなかを勝ち抜くには、より効率的な官僚組織、より効率的な経済構造、より効率的な軍隊を持つ必要がある――その試行錯誤が現れたはじめたヨーロッパ近世が、ユニークでないはずがない。

僕はその点に興味を持ったわけだ。




あーなんかめんどくさくなってきた。
冒頭でえらそなこと言っときながら、実はそんなに歴史に詳しいわけでもないし。

気が向いたら続きを書こう。