影を見つめる――河合隼雄「影の現象学」

影の現象学 (講談社学術文庫)

ずっと前、ユング心理学にはまりたての頃に読んだ本である。
著者は河合隼雄で、日本でユング派が人気なのも多分にこの人の功績が大きいそうな。

学問というほど堅苦しくはないが、
人間であれば誰もがもつ「影」というイメージに焦点をしぼり、
神話や文学、あるいは有名な実際の臨床例をもちいて、
影のもつ意味や機能を解き明かしていく。

したがって、しぜん、おのれの影を、
読み進める間に、いやでも自覚せざるを得なくなる。

影がもつ作用の、もっとも身近な例としては、
「あいつはなんとなく虫が好かないやつだ」
という場合に、自らのいやな面を相手に投げかける
投影というものがある。

他にも、
「あのひとは優しい人に違いない」
と、たとえば先生や恋人などに、
無制限のやさしさを期待する、白い影の投影、
なんていうのもある。

どちらも攻撃に転じやすい点で、
破壊的なエネルギーがある。

いままでは、なんとなく哲学の授業でやったな、
と思うくらいだったが、
これがけっこう、実際の生活、
人間関係をつくるのにも役立つのではないか、
すくなくとも、自覚は芽生える。
自覚が芽生えることで、考えることができる。
考えることで、ものごとがうまく転じることもあるだろう。

影とは、ネガティブな意味ばかりを持つのではない。
おのれの生きなかった半面、可能性の一種であり、
影とうまくつきあっていくことで、
絵画や塑像に立体感をもたらすように、
人生に立体感、深みをもたらし、生き生きと過ごすことが、
できるのではないか、
と思った次第である。

これはぜひおすすめする。
まあこのような本を読まなくても、
ちゃんとできてる人はできてるよな、と思う。
知恵ある人はどこにでもいる、と思う。

知性とか頭の回転の早さとかも大事かもしれんが、
こういった知恵ある態度というものも、大事にしていきたい。

と、言葉ではなんとでも言えますよね。
おわり。